人工関節のデメリットと寿命・再手術リスクを避ける方法

人工関節のデメリットと寿命・再手術リスクを避ける方法

親の膝や股関節の痛みがひどくなり、医師から人工関節を勧められたけれど、

「手術して本当に大丈夫なのか」

「一生もつのか」

「やり直しになったらどうしよう」

などと不安を抱えている方は少なくありません。

人工関節置換術は痛みの軽減や歩行機能の改善が期待される方法として広く行われている治療法ですが、耐用年数や術後の生活制限、再手術の可能性など、事前に知っておくべきポイントも多くあります。

この記事では、人工関節のデメリットや寿命、再手術のリスク、術後生活で気をつけたい点、さらに再手術をできるだけ避けるための具体的な工夫といった情報をまとめました。

人工関節以外の選択肢についても触れていますので、ご家族で判断する際の参考にしてください。

目次

人工関節の手術前に確認しておきたいデメリット

人工関節置換術は痛みを和らげる効果が見込める手術ですが、メリットだけに目を向けて判断するとあとから想定外の負担に戸惑うこともあります。

手術はゴールではなく、そこから生活が続いていくからです。手術を受ける前に、デメリットを正しく知っておくことが欠かせないでしょう。

人工関節4つのデメリット
  1. 一度入れると元の関節には戻せない
  2. 感染症や血栓症などの合併症が起こりうる
  3. リハビリに数カ月の時間と体力が必要になる
  4. 費用や仕事を休む期間の負担がある

いずれも手術前に理解しておけば、対策を講じることができます。順番に確認していきましょう。

一度入れると元の関節には戻せない

人工関節置換術で押さえておきたいのは、手術をすると自分の関節には二度と戻せないという点です。

一般的な手術方法
  1. すり減った関節軟骨や傷んだ骨の一部を切除
  2. 金属やポリエチレンなどでできた人工の部品を設置

膝の人工関節の例

  • 関節面の骨を数ミリ単位で削る
  • その上に金属製コンポーネントを固定する

自分の骨や軟骨の一部を切除してしまうため、「やっぱり元に戻したい」と思っても対応できません。切除した骨や軟骨は自然に再生することはないからです。

日本人工関節学会でも、「変形した関節の表面を取り除き、人工の関節に置き換えて関節の痛みを軽減する手術」と説明されています。変形した関節の表面を取り除いて置き換えるという特性上、元に戻すことはできない処置であることがわかります。

だからこそ、手術を決める前に薬物療法やヒアルロン酸注射、運動療法、装具療法といった保存的治療を十分に試し、それでも日常生活に支障が出る場合に検討する、という段階的な考え方が基本になります。

「もう少し様子を見てもいいのでは」と迷う時間も、実は無駄ではありません。

感染症や血栓症など術後の合併症が起こる場合がある

人工関節置換術には、感染症や血栓症といった一定の合併症リスクが伴います。発生頻度は低いものの、万一生じた場合の影響が大きいため、あらかじめ理解しておく必要があります。

感染症

手術の傷口や体内の別の部位(歯周病、水虫など)から細菌が人工関節に侵入して発生します。

文献によって差はあるものの、初回人工関節置換術後の深部感染・人工関節周囲感染の発生率は0.2~2.9%程度とされており、糖尿病や関節リウマチを治療中の方、ステロイドを使用している方は感染率が高くなる傾向にあります。

参考:整形外科領域の周術期感染予防

深部静脈血栓症

手術中・術後に脚の静脈に血の塊(血栓)ができる合併症です。

この血栓が肺に移動して血管を詰まらせると肺塞栓症を引き起こす可能性があります。現在は、弾性ストッキングの着用、抗凝固薬の使用、早期離床といった予防策が標準的に行われています。

そのほか、股関節では脱臼、膝では人工関節周囲骨折なども報告されています。いずれも発生頻度は高くありませんが、ゼロではありません。合併症の多くは予防策を講じることでリスクを下げられるため、術前に主治医と、自身の持病や体調を踏まえた具体的な対策を確認しておきましょう。

術後リハビリに数カ月の期間と体力が求められる

人工関節の手術後は、リハビリに数カ月かかります。「手術さえすればすぐ元通り」とはいかない点を、事前に理解しておく必要があります。

一般的な手術後の流れ
  1. 手術翌日から立ち上がりや歩行練習が始まります。
  2. 入院期間は術式や施設の体制によって差がありますが、一般的には1〜4週間程度が目安とされています。
  3. 杖や歩行器を使いながら、関節の可動域訓練や筋力トレーニングを段階的に進めていきます。

退院後もリハビリは続きます。術後1年ほどは機能回復の途中段階とされ、この期間は筋力トレーニングやストレッチを継続する必要があります。

とはいえ、翌日まで強い疲労が残るような運動は負荷が強すぎるため、自分の体力に合わせて調整していきます。

特に70代以上の高齢者は、もともとの筋力低下や持病の影響もあり、回復のペースには個人差が出やすい傾向があります。家族の送迎や家事のサポート体制をあらかじめ整えておくだけでも、心理的な負担はかなり軽くなります。

入院や手術にかかる費用と仕事を休む期間の負担

人工関節置換術は健康保険の適用対象ですが、費用面の負担はゼロではありません。仕事を持つ方にとっては、休業期間も気になるところでしょう。

入院や手術にかかる費用
総額医療費180〜250万円程度
3割負担時の自己負担額約55〜75万円前後
片側・初回手術の場合

高額療養費制度を利用すれば自己負担額はさらに軽減されます。

年収約370万〜770万円の方が高額療養費制度を利用した場合

1カ月あたりの自己負担の上限は約8〜10万円程度になります。事前に限度額適用認定証を取得しておけば、窓口での支払いも上限額までに抑えられます。

仕事を休む期間

仕事復帰までの目安は職種によって異なります。

職種術後からの休業期間
事務職1〜2カ月程度
半日程度の立ち仕事4〜6週間程度
車の運転を伴う業務2〜3カ月程度
肉体労働(農業・建築など)3〜6カ月程度

入院期間に加え、自宅療養や外来リハビリの期間も含めると、全体で2〜6カ月ほどは仕事への影響が出る可能性があります。

経済面、生活面、体力面、どれも現実的な問題です。だからこそ手術を決める前に、「術後の生活」を具体的に想像し、準備しておくことが大切です。

人工関節の寿命は何年もつのか

人工関節を検討している方から、ほぼ必ずといっていいほど出てくるのが「何年くらい使えるのか」という疑問です。

結論から言えば、一般的な目安は15〜20年とされています。

ただしこれはあくまで追跡調査に基づく研究結果の数字で、近年は素材や手術技術の進歩により20年以上問題なく経過しているケースも少なくありません。実際、長期にわたり安定して使用できている患者さんも増えています。

とはいえ、耐用年数は誰にでも同じではありません。体重や活動量、骨の状態などによって大きく左右されます。50代で手術を受ける方と、70代で受ける方では、その後の生活背景も異なります。

ここでは、人工関節の寿命に影響する要素と、寿命が近づいた際にみられる変化について解説していきます。

耐用年数は一般的に15年から20年とされている

人工関節の寿命は、おおよそ15〜20年が目安と説明されてきました。この数値は、手術を受けた患者さんの長期追跡データに基づくものです。

具体的なデータとして、人工膝関節では術後15年時点のインプラント生存率(再置換術を受けずに済んでいる割合)は96.3%と報告されています。つまり、15年以内に入れ替えが必要になるのはおよそ3.7%という計算になります。

参考:How long does a knee replacement last? A systematic review and meta-analysis of case series and national registry reports with more than 15 years of follow-up|PubMed

「15〜20年」と聞くと短く感じる方もいるかもしれませんが、実際にはそれ以上の期間安定している例も多く、これはあくまで一つの目安と考えるのが適切です。

体重・活動量・生活習慣で寿命が変わる理由

人工関節の寿命は、日々の生活の積み重ねに大きく影響されます。

関節にかかる負担

特に重要なのが荷重、つまり関節にかかる負担です。歩行時、膝には体重の約2〜3倍の力がかかるとされています。仮に体重が10kg増えれば、膝への負荷は20〜30kg増える計算になります。

参考:Loading of the knee joint during activities of daily living measured in vivo in five subjects|PubMed

活動量

活動量も無視できません。マラソンや格闘技のように強い衝撃を繰り返す運動は、人工関節の摺動部、特にポリエチレン部分の摩耗を早める可能性が指摘されています。

筋力の低下

一方で、まったく動かさないのも良くありません。筋力が低下すると関節の安定性が落ち、結果として負担が増えることがあります。推奨されるのは、ウォーキングや水中歩行など、関節への衝撃が比較的少ない運動を無理なく続けることです。こうした積み重ねが長期的な安定につながると考えられています。

骨粗しょう症

そして見落としがちなのが骨粗しょう症です。骨が弱くなると、人工関節と骨の固定性が低下し、ゆるみの原因になり得ます。特に閉経後の女性ではリスクが高まるため、骨密度検査を定期的に受けることが勧められています。骨の健康管理は、実はかなり重要です。

素材や手術技術の進歩により30年以上使えた報告もある

現在使われている人工関節は、素材の改良によって大幅に耐久性が向上しています。

摺動部に用いられるポリエチレンには、ガンマ線照射などによる高架橋化処理が導入され、従来より摩耗しにくい高耐久ポリエチレン(HXLPE)が広く用いられるようになりました。

これにより、人工股関節の摩耗や骨溶解、再置換のリスク低下が期待され、近年は15〜20年超の長期成績でも良好な結果が報告されています。

欧米の長期追跡研究では、術後30年以上経過しても大きな問題なく経過している症例も報告されており、35年時点でゆるみによる再手術が必要だった割合は2~3%程度だったというデータもあります。

もちろん、これらは特定条件下での報告であり、すべての方に当てはまるわけではありません。それでも、60歳以上で人工関節置換術を受けた場合、再手術をせずに生涯使用できる可能性は以前より高まっていると考えられます。

とはいえ、定期検診を受けずに済むわけではありません。技術が進歩しても、医師による経過観察は欠かせません。

寿命が近づいたときに現れやすい症状や変化

人工関節の寿命が近づくと、痛みや違和感が出ることがあります。中でも厄介なのは、初期にはほとんど症状が出ないケースがある点です。

人工関節のゆるみや摩耗は、時間をかけて徐々に進行します。骨とインプラントの間にわずかな隙間が生じたり、ポリエチレンがすり減ったりしても、初期段階では気づきにくいことがあります。

ゆるみ・摩耗が疑われる変化
  • 歩行時や立ち上がり時の痛み
  • 関節の不安定感やぐらつき
  • 可動域の低下、動きの硬さ
  • 脚の長さの左右差を感じる

これらの症状が出ている場合、ゆるみがある程度進行している可能性も否定できません。自覚症状がなくても半年から1年に一度は受診し、レントゲン検査などで状態を確認することが重要です。

痛みがないから大丈夫、とは言い切れないのが人工関節の難しいところです。定期的なフォローアップこそが、人工関節の寿命を長く保つための現実的な対策といえるでしょう。

再手術が必要になる原因と身体への負担

人工関節は、痛みの軽減や日常生活動作の改善を目的に行われる治療法ですが、一度入れたら終わりというわけではありません。経過のなかで状態に変化が生じ、人工関節の再置換術が必要になることがあります。

主な原因として挙げられるのは、以下の3点です。

  • 部品の摩耗
  • ゆるみの進行
  • 細菌感染

いずれも頻度としては高いものではありませんが、決してゼロではありません。

再置換術は初回手術より身体への負担が大きくなる傾向があるものの、早期に異常を見つけられれば、手術の規模を抑えられる可能性もあります。「できれば再手術は避けたい」と思うのは、ごく自然な気持ちでしょう。

だからこそ、人工関節にどのようなリスクがあり、どんなサインに注意すべきかを知っておくことが、将来の選択肢を広げることにつながります。

摩耗やゆるみが進行すると再置換術が必要になる

人工関節の再置換術が必要になる原因として最も多いのは、人工関節のゆるみと摩耗です。

人工関節は主に金属、セラミック、ポリエチレン(高分子樹脂)などで構成されています。金属やセラミック部分は比較的摩耗に強い素材ですが、軟骨の代わりとして使われるポリエチレン部品は、長年の使用によって少しずつすり減ることがあります。

人口間接にゆるみが出る過程
  1. 摩耗によって生じた微細なポリエチレンの粒子が、周囲の骨に炎症反応を引き起こす
  2. 骨が痩せていく骨溶解という現象が起こる
  3. 骨溶解が進むと、人工関節と骨との間に隙間が生じる
  4. 固定が不安定になる(この状態が「ゆるみ」と呼ばれる)

ゆるみが初期段階で発見された場合には、すべてを入れ替えるのではなく、一部の部品のみを交換する対応で済むこともあります。一方で、症状が乏しいまま骨溶解が進行すると、骨の欠損が大きくなり、より複雑な再手術が必要になることもあります。

人工関節を長く安全に使うためには、痛みがなくても定期的に画像検査を受けることが重要です。自覚症状だけに頼らないようにしましょう。

細菌感染で再置換術をする場合の流れ

人工関節の細菌感染は頻度としては低いものの、発生した場合の対応が難しい合併症の一つです。

人工物の表面に細菌が付着すると、バイオフィルムと呼ばれる膜状の構造を形成することがあります。この状態になると、抗菌薬が十分に作用しにくくなり、内服や点滴のみでの治療が難しくなるケースがあります。

細菌感染時の一般的な段階的治療(二段階再置換術)
  1. 感染した人工関節をすべて取り除く
  2. 関節内を十分に洗浄し、抗生物質入りのセメントで仮の関節(スペーサー)を設置する
  3. 数週間〜数カ月かけて抗生物質を投与し、感染が治まるのを待つ
  4. 感染の鎮静化が確認されたら、新しい人工関節を入れ直す

この二段階再置換術は、患者の身体に大きな負担がかかります。入院期間も長くなり、生活制限も伴うため、精神的にも大きなストレスになりがちです。

感染予防のために必要なこと
  • 術前の口腔内環境の管理(歯科治療)
  • 皮膚トラブル、白癬(水虫)などの治療
  • 糖尿病など基礎疾患のコントロール

再置換術が初回手術より身体への負担が大きい理由

再置換術が初回の人工関節手術よりも身体への負担が大きくなる傾向があるのには、いくつか理由があります。

人工関節の取り外し

すでに骨に固定された人工関節を取り外す工程が加わる点です。骨にしっかり固定された部品を丁寧にはがす必要があり、その分だけ手術時間が長くなります。

骨の状態悪化

ゆるみや骨溶解が進行している場合、初回手術時よりも骨の状態が悪化していることが少なくありません。新しい人工関節を安定して固定するために、骨移植や金属製の補強器具を使用することもあります。

脱臼のリスク

特に人工股関節では、再手術後は脱臼のリスクが初回より高まるとされています。周囲の筋肉や靭帯がすでに一度手術を受けているため、支持力が低下している可能性があるからです。

とはいえ、近年は再置換術専用に設計されたインプラントの開発や手術技術が進歩しています。骨の損失が軽度の段階で適切に介入できれば、身体への負担を比較的抑えられるケースもあります。

ただ、入院期間は初回手術よりも長くなる傾向があり、骨を移植する複雑な手術の場合、入院期間は数カ月に及ぶこともあります。

人工関節は、入れた後のフォローアップまで含めてひとつの治療です。違和感や腫れ、熱感などがあれば早めに医療機関へ相談してください。小さな変化を見逃さないことが、将来的な大きな負担を減らす鍵になります。

人工関節にした後の生活で制限されること

人工関節の手術を受けると痛みから解放される一方で、日常生活のなかで意識しなければならない動作や習慣が出てきます。正座やしゃがみ込みといった動作が難しくなるほか、スポーツの種類にも向き・不向きがあります。

制限の程度は術式や関節の部位によって異なりますが、最近では筋肉を温存する手術法の普及により、制限が緩やかになってきているケースもあります。

それでも、術前に生活でどんなことに注意が必要かを知っておくことは、術後の満足度に直結します。具体的な制限内容と、生活を工夫するポイントを確認しましょう。

正座やしゃがみ込みなど避けたい動作の具体例

人工関節を入れた後は、関節に過度な負担がかかる動作を避けることが基本です。

人工膝関節の場合

術後の膝の曲がる角度(屈曲角度)は平均120度程度とされています。健康な膝は150度近く曲がるため、正座が可能になる方は約5〜10%にとどまります。

人工股関節の場合
脱臼防止のために注意が必要な姿勢
  • 横座りやペタンコ座り
  • 脚を組む動作
  • 膝を胸に引き寄せる姿勢
  • 低い椅子やソファからの立ち上がり

和式トイレや畳での生活は、膝や股関節に負担がかかりやすいため、椅子やベッド、洋式トイレを中心とした生活様式に切り替えることが推奨されます。

とはいえ、筋肉温存術式を採用している施設では、これらの制限が大幅に緩和される場合もあります。基本は主治医の指示に従うことです。

続けられるスポーツと控えたほうがよい運動

術後もスポーツを楽しみたい方は多いと思います。一般的には、関節への衝撃が少ない運動は継続可能ですが、激しい運動は人工関節の耐久性に影響する可能性があります。

控えたほうがよい運動ジョギング

サッカー

バスケットボール

野球

格闘技

激しいエアロビクス など
経験者なら許可される場合がある運動スキー

スケート

ハイキング など
続けやすい運動ウォーキング

水泳

サイクリング

ゴルフ

ボウリング

社交ダンス

エアロバイク など

近年は「スポーツを楽しむために手術を受ける」という方も増えており、リスクを了承したうえで一部の激しい運動を許可する施設も出てきています。いずれの場合も、定期検診を欠かさず、関節の状態を確認しながら行うことが重要です。

仕事復帰の時期や介護・通院を見据えた暮らしの工夫

仕事復帰までの期間は、職種によって異なります。事務職であれば早ければ術後2~4週間、肉体労働であれば3カ月以降を目安に考えられます。

リハビリの通院も週1〜2回程度、数カ月間続くことが多いため、通いやすい施設を事前に探しておくと安心です。

高齢者向けに整えたい生活環境
トイレ自宅のトイレを洋式に変更する(手すりの設置も含む)
段差玄関や浴室など段差のある場所に手すりをつける
ベッドベッドの高さを調整して立ち上がりやすくする
敷物カーペットなどつまずきやすい敷物を撤去する
家事退院直後の買い物や家事のサポート体制を決めておく

手術は「受けて終わり」ではありません。退院後の生活環境を整えることが、回復の質や人工関節の長期的な使用に大きく影響します。

再手術リスクを下げて人工関節を長持ちさせる方法

人工関節をできるだけ長く使い、再手術の可能性を抑えるためには、術後の過ごし方がとても重要です。特別な治療を追加するというより、日々の習慣を整えることが基本になります。

ポイントは大きく分けて、以下の3つです。

  • 体重管理
  • 運動の継続
  • 感染予防・定期検診

特別なことをする必要はなく、地道な積み重ねが人工関節の寿命を延ばすことにつながります。逆に、太り過ぎや運動不足、検診の中断は、ゆるみや感染のリスクを高める要因になりかねません。

体重管理で膝や股関節への負担を軽くする

体重は関節への負担に直結するため、人工関節を長持ちさせるうえで最も基本的なポイントです。

先述のとおり、歩行時に膝にかかる負荷は体重の2〜3倍、階段の昇り降りでは約4倍ともいわれています。体重が5kg増えると、膝には10〜15kgの追加負荷がかかる計算です。

参考:Loading of the knee joint during activities of daily living measured in vivo in five subjects|PubMed

体重増加は人工関節のゆるみや摩耗を早める原因になるだけでなく、糖尿病のリスクも高めます。糖尿病は感染症のリスクを高めることが知られており、結果として人工関節の感染リスクにもつながります。

体重管理のポイント

BMI25未満を目安に、食事と運動の両面から無理なく管理していくことが推奨されています。急激な減量は筋肉量の低下を招くため、月に0.5〜1kg程度の緩やかな減量を目指しましょう。

適度な運動とリハビリの継続で筋力を維持する

人工関節を長持ちさせるうえで、筋力の維持は欠かせません。関節を支える筋肉が弱ると、人工関節への負担が偏り、ゆるみや摩耗が進みやすくなります。

退院後のリハビリは「指導期間が終わったらおしまい」ではなく、日常生活のなかで継続していくものです。ウォーキング、水中歩行、エアロバイクなど、関節に衝撃がかからない運動を習慣にすることが推奨されています。

術後は「歩いてはいけない」のではなく、「適度に歩くことが勧められる」場合が多いです。ただし、翌日に強い痛みや疲労を残すような運動量は過度と考えられます。

また、転倒による骨折は人工関節にとって大きなトラブルにつながります。片脚立ちや軽いスクワットなど、バランス能力を保つ運動も取り入れるとよいでしょう。具体的な内容は主治医や理学療法士に確認するのが安心です。

運動は薬のように即効性があるわけではありませんが、数年単位で差が出てきます。

感染予防の体調管理と定期検診で異常を早期に見つける

人工関節の感染は、手術直後だけでなく、術後数年〜数十年経ってから起こる「遅発感染」もあります。

遅発感染とは

遅発感染(遅発性ウイルス感染症)とは、ウイルスに感染してから数年〜十数年という非常に長い潜伏期間を経て、徐々に進行性の神経症状などを発症する特異な感染症です。

日頃の体調管理と定期検診の両方が、長く安全に使い続けるための土台になります。

感染予防のために心がけたいこと
  • 歯周病や虫歯は放置せず治療する(口腔内の細菌が血流に乗って人工関節に到達する可能性がある)
  • 水虫などの皮膚感染症も早めに治療する
  • 風邪やインフルエンザなどで免疫力が低下した状態を長引かせない
  • 糖尿病がある場合は血糖コントロールを良好に保つ
定期検診で確認する内容
  • レントゲン検査でゆるみや骨溶解の有無をチェック
  • 血液検査で骨の代謝や感染の兆候を確認
  • 骨密度検査で骨粗しょう症の進行を確認

人工関節のゆるみは、初期には自覚症状がほとんどないこともあります。「痛みがない=問題がない」とは限りません。早期に異常が見つかれば、部品の一部交換など比較的小規模な対応で済む可能性もあります。

半年から1年に一度の定期検診を習慣にすることが、人工関節を長く安全に使い続けるための現実的な対策です。

人工関節以外に検討できる治療の選択肢と判断の考え方

人工関節は確立された治療法ですが、すべての方にとって最善の選択とは限りません。症状の強さ、年齢、生活の目標によっては、手術をせずに対応できるケースもあります。

薬物療法や運動療法といった保存的治療に加え、近年はPRP療法や幹細胞治療などの再生医療も選択肢に入ってきました。

「手術をすべきか、もう少し様子を見るべきか」と迷っている方も多いのではないでしょうか。ここでは、人工関節以外の治療法の概要と、どんな方に人工関節が向いているのかを解説します。

薬物療法や運動療法など保存的な治療をまず試す考え方

変形性関節症の治療は、まず保存的治療から始めるのが一般的です。いきなり人工関節を検討するケースは多くありません。

薬物療法

消炎鎮痛薬の内服や外用薬が用いられ、痛みや炎症の程度に応じて処方が調整されます。また、ヒアルロン酸の関節内注射も広く行われています。ヒアルロン酸は関節内の潤滑性を補うことを目的とした治療で、一定の症状緩和が期待されており、保険診療で受けることが可能です。

運動療法

関節周囲の筋力を強化し、関節の安定性を高めることを目的としています。特に膝では、大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)を鍛えることで、関節の安定性向上や症状の軽減につながる可能性が示されています。

そのほか、足底板(インソール)による荷重バランスの調整、杖の使用による負荷軽減なども有効な方法です。こうした積み重ねが症状の進行を緩やかにすることがあります。

一般的には、2〜3カ月程度保存的治療を行っても改善が乏しい場合や、関節変形が進み日常生活に明らかな支障が出ている場合に、人工関節手術が選択肢として検討されます。

再生医療など手術をしない治療の概要

近年、保存的治療と手術の中間的な選択肢として、再生医療が注目されています。入院や切開を伴わない治療法として関心を持つ方も増えています。

PRP(多血小板血漿)療法

患者自身の血液から血小板を濃縮し、関節内に注射する方法です。血小板に含まれる成長因子の働きにより、炎症の抑制や組織の修復促進が期待されています。

幹細胞治療

患者の脂肪組織などから幹細胞を取り出し、培養して関節内に注入する方法です。幹細胞幹細胞が分泌するさまざまな因子によって、炎症の抑制や組織環境の改善が期待されています。

PRP療法・幹細胞治療に関する注意事項
  • 現時点ではPRP療法・幹細胞治療ともに保険適用外(自費診療)
  • 費用は医療機関により異なり、1回あたり数万〜数百万円の費用がかかる
  • 効果には個人差があり、すべての方に有効とは限らない
  • 関節の変形が高度に進行した方には改善が限られることがある
  • 長期的な有効性に関するデータはまだ蓄積段階にある

再生医療を受ける場合は、厚生労働省へ再生医療等提供計画を届け出ている医療機関であることを確認することが重要です。人工関節と同様に、メリットだけでなく限界も理解したうえで検討する必要があります。

人工関節が向いている人と慎重に判断したい人の違い

どのような場合に人工関節が現実的な選択肢になるのでしょうか。手術の決定は、主治医との相談で決めるべきですが、ご自身やご家族の状況を照らし合わせるための参考にしてください。

人工関節が向いていると考えられるケース
  • 保存的治療を続けても痛みが改善しない
  • 関節の変形が進行し、歩行や階段昇降など日常動作に大きな支障が出ている
  • レントゲンで軟骨がほぼ消失し、骨同士が直接こすれ合っている状態
  • 年齢が60歳以上で、耐用年数を踏まえても生涯使い続けられる見込みがある
慎重に判断したいケース
  • 40〜50代で、将来的に再置換術が必要になる可能性が比較的高い
  • 糖尿病や免疫抑制状態など、感染リスクが高い基礎疾患がある
  • 保存的治療や再生医療を十分に試していない
  • 痛みはあるが日常生活には大きな支障が出ていない

人工関節は、痛みの原因となっている関節面を人工物に置き換えるため、適切な適応で行われれば、高い満足度が得られることも少なくありません。一方で、元の関節に戻すことはできません。

少し遠回りに思える保存的治療の時間が、結果として納得のいく選択につながることもあります。

手術のメリットとデメリットの両方を理解し、主治医や家族と十分に話し合い、自分の生活にとって何が一番大切かを見つめ直したうえで、決断することが大切です。