階段を上るたびに膝がズキッと痛み、一歩ずつしか足を出せない。そんなつらさを抱えている方は少なくありません。
階段で膝が痛くて登れない原因の多くは、膝関節にかかる過剰な負荷と、それを支える筋力や軟骨の衰えにあります。階段の上り下りでは、平地を歩くときの数倍もの力が膝に集中するため、痛みが出やすいのです。
「年齢のせいだから仕方ない」と放っておくと、かばい歩きによる膝の変形や筋力低下の悪循環を招くおそれがあります。
この記事では、階段で膝が痛くて登れないと感じたときに考えられる原因を整理しながら、日常生活で意識したい対処のヒントや、医療機関への相談を検討したほうがよいタイミングについて解説します。
ご自身やご家族の膝の痛みに向き合うきっかけとして、ぜひご活用ください。
階段で膝が痛くて登れないときに今すぐできる対処法
階段で膝が痛くて登れないとき、まずは以下の3つを意識すると、動きやすさが少し変わることがあります。
- 冷やすか温めるか
- 膝に負担の少ない上り方
- サポーターや手すりなどの道具の活用
痛みの状態や膝の腫れ具合によって取るべき対処法は変わるので、自分の膝の状態を観察することが大切です。ここでは、それぞれの対処法を具体的に紹介していきます。
痛みの強さに応じた冷やす・温めるの使い分け
膝の痛みが急に強く出ている場合、まずは炎症の有無を確認することがポイントです。
| 炎症 | 状態 | 対処法 | 効果 | 注意事項 |
|---|---|---|---|---|
| あり | 触ったときに熱を感じる 赤く腫れている ズキズキとした痛みがある | 氷水を入れた袋やアイスパックをタオル越しに15分〜20分ほど当てる | 腫れや痛みの広がりを抑えやすくなる | 直接氷を長時間当てると皮膚を傷めることがあるので、必ず布を挟んで使用する |
| なし | 痛みが数週間以上続いている 朝のこわばりを感じる お風呂に入ると少し楽になる | 蒸しタオルや入浴で膝周囲を温める | 血行が改善し、動かしやすさが増すことがある | 慢性期の膝は血流が滞りやすく、筋肉も硬くなりがち |
ただし、慢性的な痛みでも、急に膝が赤く熱を持った場合は冷やす方が適している場合もあります。判断に迷ったときは、整形外科で相談するのが確実です。
膝への負担を減らす階段の上り方と足を出す順番
階段を上るとき、どちらの足を先に出すかを少し意識するだけで膝への負担は軽くなります。
基本的には「上りは痛くない方の足から、下りは痛い方の足から」です。
- 階段を上るとき
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階段を上るとき、体を持ち上げる動作は先に出した足に大きな負荷がかかります。痛くない方の足を先に一段上に置き、その足で体を引き上げてから、痛い方の足を同じ段に揃える。この「2足1段」の方法なら、体を引き上げる瞬間に痛い方の膝を使わずに済みます。
- 下りるとき
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下りるときは逆に、痛い方の足を先に下ろします。体重を支えるのは上に残った痛くない方の足なので、痛い膝にかかる衝撃を減らせるわけです。時間はかかりますが、1段ずつ足を揃えながら移動するだけで痛みはかなり和らぎます。
階段を上り下りする際には、背筋をまっすぐ伸ばし、前かがみにならないことも大切なポイントです。前傾姿勢になると股関節やお尻の筋肉がうまく機能せず、膝だけに負担が集中してしまいます。
サポーターや手すりを使って膝を守る日常の工夫
膝の痛みを和らげるために、サポーターや手すりの活用もおすすめです。
- 膝用サポーター
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膝用サポーターは、関節をやさしく圧迫して安定性をサポートします。膝全体を覆うタイプ、お皿の上下をストラップで固定するタイプなど種類がありますが、まずは自分の膝まわりのサイズに合ったものを選ぶことが大切です。
きつすぎると血行が悪くなり、ゆるすぎると支える効果が薄れます。装着感に違和感がある場合は、薬局や整形外科で相談してみてください。
- 手すり
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手すりは「あると安心」ではなく、膝への負担を減らすためのサポートとして積極的に使いましょう。手すりに体重の一部を預けるだけで、膝にかかる負荷はかなり軽減されます。
ほかにも、正座の代わりに椅子を使う、立ち上がるときは手やテーブルに力を分散させる、寝るときに膝の下にクッションを入れて関節をリラックスさせるなど、ちょっとした工夫が膝の負担軽減につながります。
階段で膝が痛くなる原因は体重の数倍かかる負荷にある
階段の上り下りで膝が痛む最大の理由は、膝関節にかかる負荷の大きさにあります。平地を歩くだけでも膝には体重の約2~3倍の力がかかりますが、階段の昇降では体重の約5倍~6倍にまで跳ね上がるとされています。
参考:Tibio-femoral loading during human gait and stair climbing|PubMed
体重60kgの方であれば、階段を上り下りするたびに300kg~360kg相当の負荷が膝にかかる計算です。
膝関節はこの大きな力を軟骨や筋肉、靭帯、半月板といった複数の組織で衝撃を受け止めているため、どれか一つにでも問題があれば痛みが発生しやすくなります。
では、具体的にどのような状態が膝の痛みを引き起こすのでしょうか。
筋力の低下や体の硬さが膝の痛みを招く理由
膝の痛みには、筋力の低下や関節周囲の柔軟性の低下が関係している場合があります。
- 筋力の低下
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階段を上る動作では、太ももの前面にある大腿四頭筋(だいたいしとうきん)、ふくらはぎの下腿三頭筋(かたいさんとうきん)、お尻の大殿筋(だいでんきん)など複数の筋肉が連動して働きます。
しかし、運動量の低下や加齢などで筋力が弱くなると、膝周囲の筋肉の働きのバランスが崩れます。その結果、膝関節への負担が適切に分散されず、違和感や痛みにつながります。
- 関節周囲の柔軟性の低下
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筋肉の柔軟性が低下すると膝の曲げ伸ばしがスムーズにいかず、無理な角度で負荷がかかりやすくなります。股関節や足首の硬さも膝への影響が大きく、これらの関節が硬くなると膝関節への負担が増加する傾向があります。
日本整形外科学会の「変形性膝関節症診療ガイドライン2023」でも、医師の指導のもとで行う運動療法による筋力強化と関節可動域の維持は推奨度の高い対策として位置づけられています。
軟骨のすり減りや半月板の損傷が関係している場合もある
筋力や柔軟性の低下の他にも、膝の関節内部で軟骨がすり減っていたり、半月板が損傷していたりするケースがあります。
- 軟骨のすり減り
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膝関節の骨の表面を覆う軟骨は、骨どうしがぶつからないようにするクッションの役割を担っています。年齢を重ねるにつれて軟骨の水分量が減り、弾力が失われていくため、階段の上り下りのような大きな負荷がかかる動作で痛みが出やすくなります。
- 半月板損傷
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半月板は膝の内部にある三日月型の軟骨組織で、衝撃を吸収する働きを持っています。スポーツや日常動作、加齢などで半月板が傷つくと、膝を曲げ伸ばしする際に引っかかりやロッキング(膝が急に動かなくなる症状)を感じることがあります。
軟骨や半月板の損傷は外から見えないため、痛みが続く場合は整形外科での画像検査により内部の状態を確認することが重要です。
膝の痛みを放置すると起こる悪化リスク
「年のせいだから」「しばらくすれば治るだろう」と膝の痛みを放置してしまう方は少なくありません。しかし、膝の痛みには自然に回復しにくいものもあり、放っておくと状態が徐々に悪化することがあります。
特に気をつけたいのは、痛い方の足をかばって歩くことによる膝の変形と、活動量の低下による筋力の低下です。これらが重なると、日常生活そのものに支障が出る場合もあります。
かばい歩きが膝の変形につながる恐れ
膝が痛いと、無意識に痛い方の足をかばって歩くようになります。
このかばい歩きが長期間続くと、膝関節の片側だけに負荷が偏り、変形を進行させるおそれがあります。
日本人にはO脚傾向の方が多く、もともと膝の内側に体重がかかりやすい構造をしています。かばい歩きでさらに内側の軟骨に負荷がかかると、O脚の度合いが強まり、ますます内側に負荷が集中するという悪循環に陥ります。
変形性膝関節症が進行すると関節の変形でO脚やX脚が顕著になり、膝がまっすぐ伸びにくくなったり、曲げ伸ばしがスムーズでなくなることがあります。さらに進むと靭帯のバランスも崩れ、膝が不安定な状態になったり、杖やシルバーカーなしでは歩行が難しくなったりするケースもあります。
一度変形してしまった膝関節を元に戻すのは容易ではありません。「まだ歩けるから大丈夫」と思える段階で手を打つことが、将来の生活の質を左右します。
動かなくなることで筋力が落ちさらに痛みが増す流れ
膝の痛みがつらくなると、外出や階段の利用を控え、自然と活動量が減りがちです。すると、膝を支える太ももやお尻の筋肉が衰え、膝にかかる負担がさらに大きくなることがあります。
- 痛みで動かなくなる
- 筋力が落ちる
- さらに痛みが増す
活動量が極端に下がった状態が続くと、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)に発展する可能性も指摘されています。ロコモティブシンドロームとは、
骨・関節・筋肉などの運動器が衰え、立つ・歩くといった移動機能が低下し、要介護状態に近づいてしまう状態です。通称:ロコモ、和名:運動器症候群とも呼ばれます。
厚生労働省の2019年の国民生活基礎調査では、要支援の原因として関節疾患が上位に挙がっており、膝の痛みが介護リスクに直結しうることを示しています。
膝の痛みがあっても、医師と相談しながら無理のない範囲で膝を動かし続けることが、悪循環を防ぐポイントです。水中ウォーキングや椅子に座ってのレッグレイズなど、膝への負担が少ない運動から始めるのがよいでしょう。
痛みが2週間以上続くなら整形外科で早めに相談する
膝の痛みが2週間以上続いている場合は、自己判断で様子を見るよりも整形外科を受診することをおすすめします。
変形性膝関節症をはじめ、膝の痛みの原因は外から見ただけでは判別が難しく、画像検査で内部の状態を確認して初めて分かることが多いためです。早めに原因が特定できれば、運動療法や薬物療法など、自分の症状に合った対策を始めやすくなります。
受診をためらう方も少なくありませんが、膝の痛みは放置すると対処の選択肢が狭まる傾向があります。「一度診てもらうだけ」という気持ちで足を運ぶことが、結果的に生活の質を守ることにつながるでしょう。
受診の目安になる症状のチェックポイント
以下のような症状がある場合は、早めに整形外科を受診した方がよいと考えられます。
- 膝の痛みが2週間以上改善しない
- 膝が腫れている、熱を持っている、水がたまっている感じがする
- 朝起きたとき、膝のこわばりが数分以上続く
- 階段の下りで膝に力が入らず、ガクッと膝が抜ける感覚がある
- 正座やしゃがみ込みができなくなった
- 歩き始めに痛むが、しばらくすると落ち着くパターンを繰り返している
特に「歩き始めに痛むが動いているうちに和らぐ」という症状は、変形性膝関節症の初期にみられる特徴です。「動けるうちは大丈夫」と思いがちですが、初期のうちに対処を始めることで進行を抑えやすくなります。
これらの症状が一つでもあれば、早めの受診を検討してみてください。年齢や症状の程度にかかわらず、医師の判断を仰ぐことが膝を守る第一歩です。
整形外科で受けられる検査と治療の選択肢
整形外科では、まず問診で痛みの経緯や症状を確認し、触診で膝の状態を把握した上で画像検査に進むのが一般的な流れです。
- 検査
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代表的な検査にはレントゲンとMRIがあります。
- レントゲン
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レントゲンでは骨の形や関節のすき間の広さを確認でき、変形性膝関節症の診断に広く使われています。
- MRI
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軟骨や半月板、靭帯の状態をより詳しく調べたい場合にはMRI検査が行われます。
日本整形外科学会の「変形性膝関節症診療ガイドライン2023」でも、レントゲンとMRIが診断に有用な検査として位置づけられています。
- 治療(保存療法)
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手術を伴わない保存療法には、運動療法、薬物療法、装具療法などがあります。
- 運動療法
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運動療法では太ももの筋力強化や関節の可動域を広げる訓練を行い、膝の安定性を高めます。同ガイドラインでも運動療法の有用性は高い推奨度で示されており、保存療法の柱といえます。
- 薬物療法
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薬物療法では、消炎鎮痛薬の内服やヒアルロン酸の関節内注射などが状況に応じて選ばれます。ヒアルロン酸注射は関節液の主成分を補うもので、、膝の動きを滑らかにすることが期待される治療の一つです。
- 治療(手術療法)
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保存療法で十分な改善が得られない場合には、関節鏡を使った手術や、骨切り術、人工膝関節置換術などの手術療法が検討されることもあります。
どの治療が適しているかは、症状の程度や生活スタイルによって異なるため、医師とよく話し合って決めることが大切です。
